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レトリカ西東京支部彼岸便り

『Just Because!』を誰かに観てもらうためにブログを開設した。

あなた is 誰?

1990年生まれ。ミニコミRhetoricaのレクリエーション担当。 最近ではDisc Review: tofubeats – FANTASY CLUBの巻頭言/編集など。 ITベンチャー勤務。教育領域からインフラ構築まで、人でも機械でもかまわずバフを撃ちまくります。 何かを応援しなければ!というヲタク的な気分が5000年ぶりに湧き上がり、ブログを新規開設。

Just Because!』とはなんですか?

Just Because!』は今季放送中のTVアニメで、現代の鎌倉を舞台とした高校生達の青春群像劇です。執筆時点では9話まで放送中。

高校三年の冬。残りわずかとなった高校生活。このまま、なんとなく卒業していくのだと誰もが思っていた。突然、彼が帰ってくるまでは。中学の頃に一度は遠くの街へと引っ越した同級生。季節外れの転校生との再会は、「なんとなく」で終わろうとしていた彼らの気持ちに、小さなスタートの合図を響かせた。
「Just Because!」公式サイト

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PINE JAMの初オリジナル作品。ガルパンなどで絵コンテ/演出を担当した小林敦の初監督作品。シリーズ構成/脚本は鴨志田一が務めます。鴨志田一も本作が初シリーズ構成となり、彼は『さくら荘のペットな彼女』/『青春ブタ野郎』シリーズなど、ライトノベル作家として著名な方です。脇を固めるスタッフの面々を眺めても、颯爽と現れた新星という勢いを感じます。 他方で、制作サイドが荒れているという噂もあり、一部で作画崩壊を揶揄されるなど十全な制作状況ではないという話も流れてきます。 詳しくは下記の記事参照のこと。

blog.sakugabooru.com

この噂を裏付けるように第7話が1週飛ぶという事案が発生してしまいました。 "LIVING CHARACTERS, DEAD PRODUCTION"とあるように、ハードな状況がゆえに挑戦的であり、キャラクターたちは輝いているようにも思えます。 

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Just Because!』の見所

さて、このような経緯もあり、一人でも多くの人に『Just Because!』を観てもらうべく、軽めの紹介をするというのが今回の本旨です。しかし、あまりにも想い入れが強すぎた結果、短めの論考なみの長文に成り果ててしまいました.......分析的な目線があるわけでもなく、一体誰向けの文章なのか。以降、長々と書いてあることを3つのポイントに絞ってサマリ的にまとめました。これでちょっとでも気になった方は、このエントリは横において、是非、『Just Because!』をご覧ください。

1. ミニマルで距離のある群像劇の新機軸

京都アニメーションP.A.WORKSなどの諸作品の系譜を受け継ぎつつ、ミニマルな会話、構図の深さや編集のリズムによって、独特な距離感で登場人物たちに光を当てているのが、本作の魅力の一つです。従来的な内面描写を抑え、LINEを使った演出などが目を引きます。京アニ超平和バスターズの群像劇を楽しんだ方は見逃さない理由がありません。

2.「終わらせられず、積もっていくものをいかに終わらせるか」という主題

青春群像劇というと、やはり恋愛が主題になってくるのですが、この作品で扱われる恋愛は劇的に「始まって、育って、結末を迎える」ものではなく、「終わってるんだか、終わってないんだかよくわからない」ものであり、恋愛以外を含めた、日々そこここに溜まっていく諦念の集積として描かれます。このようなタイプの感情こそが一番見切りを付け難く、恋愛以上に現実の我々を迷わせるものです。モチーフや設定を効果的に使い、この焦点化しにく問題を主題的に扱っていることが本作の注目点です。登場人物それぞれがどのように決着をつけていくの目を離せません。

3.新鋭制作陣の絶妙な噛み合い

初オリジナル作品、初監督、初シリーズ構成、初主演、初劇伴など初が並ぶ本作において、制作陣それぞれが本当にいい仕事をしていると思います。分かりやすい真新しさや目論見が先行するのではなく、例えば、小林監督の絵コンテのカットのリズム感、鴨志田脚本のミニマルさ、やなぎなぎの音楽の抑揚など、各スタッフがそれぞれの職能のなかで十全に役割を果たし、それが噛み合うことによって、『Just Because!』の作品性が浮かび上がっているのです。月並みな表現をすれば、よきバンド演奏を聴いているかのようです。

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Just Because!』はここで見れる!

既に物語は架橋に差し掛かっておりますが、Amazonプライム・ビデオやNetflixなどで第一話から見返せるので、是非ご覧ください。

www.netflix.com

Just Because! | 動画 | Amazonビデオ

Just Because!』の見所をより深く(※長文)

ポスト・超平和バスターズを感じさせる群像劇

ポスト・超平和バスターズと勝手に持ち上げるのは、制作陣の本意とは異なるところかもしれませんが、少なくても本作は超平和バスターズ作品の影響を感じさせ、対比していくといくつかの見所が定まっていきます。

超平和バスターズ長井龍雪(監督)・岡田麿里(脚本)・田中将賀(キャラデザ)によるアニメ制作ユニット。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2013)と『心が叫びたがってるんだ。』(2017)で使用された名義ですが、実質的には『とらドラ!』(2008)以来のユニットです。彼らの作風は00〜10年代のアニメーション作品の方向性の一つを決定付けていますが、特に今回のエントリで重要なのは脚本家、岡田麿里の仕事です。 岡田の与えた影響を本当に一言で表せば、男の子向けコンテンツに少女漫画的なモチーフを取り入れることにあります。今では男の子向けコンテンツに少女漫画的なモチーフが入ること自体は広く見受けられ、その源泉を辿れば、例えば少年サンデーの諸作品で古くから試みられていることでもあります。しかし、岡田の導入の仕方は苛烈そのものでした。

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その苛烈さは彼女の実質的な初オリジナル作品『true tears』(2008)で存分に味わうことができます。昨今の少年漫画がスムーズに少女漫画要素を取り入れているのに比べて(例えば『星野、目をつぶって』など)、『true tears』の登場人物の振る舞いやセリフは、従来の男の子向けコンテンツの作法に対し強烈な摩擦を引き起こします。ヒロイン石動乃絵は登場シーンに始まり、「私、涙あげちゃったから」など時空を歪めるような数々の名言を産み落とすことになります。

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岡田の描く物語の基本線は、寓話的な世界観(個人の内面、少女性)と現実の抑圧(人とのコミュニケーション、女性性)との摩擦を機微を持って描くことにあります。『true tears』に関しては石動乃絵ともう一人のヒロインである湯浅比呂美がこの構図に対置されます。オリジナル作品ではない『とらドラ!』でさえ、原作にある寓話的な一文を効果的に活用し、対して川嶋亜美というキャラの寓話への批判的側面(女性性)を上手に強調し、自らのスタイルに引き寄せています。岡田の構図が洗練されている部分は、少女性を守るための代償と、大人になったことによって引き受ける抑圧が相対しており、「夢見がちな少女が現実を知って成長していく」という単線的なジュブナイル図式に立って「いない」ことです。こうして少女と女性の隙間の問題が浮かび上がり、岡田の作家性は立ち上がっていきます(よって岡田作品の見所は少女性と女性性を担わされた存在以上に、その傍流にいる隙間のような役割を担わされた人物の動きに表れたりします)。

さて、近年では実写映画にも進出し(『暗黒女子』(2016)、『先生! 、、、好きになってもいいですか?』(2017))、そして来年2018年には、初監督作品『さよならの朝に約束の花をかざろう』が控え、岡田麿里の今後の更なる活躍が期待されます。こと群像劇を書かせれば岡田一強のような状況で『Just Because!』は超平和バスターズの系譜を受け継ぎつつ、別の流れを打ち出した作品として映りました。

その別の流れとは何か。ザックリした言い方をすれば、超平和バスターズの諸作品がキャラクターを包み込むかのような態度であるのに対し、『Just Because!』の態度はより透徹した目線で静観し、ある意味ではキャラクターを突き放しているのです。さらに感覚的な言葉に置き換えれば、超平和バスターズには神(=岡田)の目線を感じるけれども、『Just Because!』には人工的な編集感覚があるということです。ある意味では人の立場に降りてきており、しかし寄り添っていない。この態度の違いが、別の仕方で登場人物に光を当て、その生をありありと描きます。

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Just Because!』の態度を可能にしているのは、物語の展開やキャラの動き以上に、構図とカットの切り替えが主導権を握っているかのような映像にあるように思えます。その特徴は第1話にはっきりと表れています。数十本の新作アニメが出揃うなか、掴みが重要な第1話というポジションにおいて、『Just Because!』の第一話はそもそも物語的な動きがほぼありません。主要キャラクターは出揃うものの、その関係性を説明するような情報は意図的に削ぎ落とされ、話の本線は主人公、瑛太とその友人、陽斗の再開と二人の草野球というささやかな事柄に収斂されます。そうであるにも関わらず、観れてしまい、むしろ、まるで最終回のような盛り上がりを見せるのは、構図と編集、そして音楽のリズムが抑揚を支配しているからです。

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具体的には超平和バスターズ以上に京都アニメーションからの影響を感じる風景描写に始まり、まるで有名作品の劇場版かのように(それこそ劇場版『涼宮ハルヒの消失』のような)、ゆっくり構えた冒頭。モノにしろキャラにしろ妙に深い位置に置かれるオブジェクトと構図のおもしろさ、編集のテンポ感で引っ張っていく室内シーン主体の中盤。そしてタメを一気に弾けさせる吹奏楽曲を効果的に使ったクライマックスの草野球シーン。

ほとんど映像の詐術だけで日常を奇跡に仕立てあげる第1話は『Just Because!』の端的な態度表明に思えます。やや結論を先取りして言ってしまえば、「待っていても分かりやすい契機などやってこない、しかし自己演出によって契機を捏造し、ドラマを仕立て上げていくのだ」ということです。これは第1話のラストで陽斗が下すある決意につながっており、その決断の契機があまりにもささやかだったことに重ね合わされます。この読みがどこまで正しいかは脇に置くとして、性徴という逃れられなさを物語の契機として効果的に用いる岡田とはやはり対照的な態度のように思えます。

そのほかにも『Just Because!』の内面描写のミニマルさには目を引くものがあります。内面描写の定番であるモノローグや説明的な独り言が抑えられており、寓話を使った暗喩とキャラクターの状況をうまく結びつけて内面描写を豊かにしている岡田麿里の手法と対照的です。そして従来的な手法で描かれない内面の代替に描かれるのが、LINEを使ったコミュニケーションです。特に第2話の終幕間際の演出が素晴らしく、文字情報に置き換わることによって取捨される感情をキャラクターの表情を通し、内側からではなく、あくまで外側から眺めて差し出すこと。これによって「どれも本当の気持ちじゃない」ということが端的に示されます。「本当の気持ちなど本人も知らないんだから、世界が知っているわけないだろう」とでも言いたげな切り出し方。コミュニカティブで、決して閉塞的ではないけれども、気持ちはバラバラな登場人物たちのあり方にはリアルさがあり、ともすれば凡庸になりがちなメッセージングツールの画面を浮き上がらせる演出は見事にハマっています。

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超平和バスターズ京都アニメーションの系譜を抑えつつ、それとは異質な「ミニマルで遠い」映像感覚が群像劇に新しい流れを呼び込んでいるーー『Just Because!』はそんな作品です。特にオブジェクトの深さとカメラの中心からややズレたカットは作品全体の基調を作っているように思えます。

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アンチ・ラノベ的発想で作られた物語

超平和バスターズとの対比でいくと、映像と演出に目が行きますが、おそらく岡田麿里と一番距離が近いのはシリーズ構成/脚本を務める鴨志田一です。鴨志田は自身のライトノベル原作『さくら荘のペットな彼女』(2012)でアニメ脚本家デビューを果たし、そのシリーズ構成を務めたのが岡田です。その後も鴨志田が脚本した作品は全て岡田がシリーズ構成を担当した作品であり、強い影響関係を伺わせます。

それでは鴨志田脚本は本作でどういう志向性を持っているのでしょう。基本的な枠組みは岡田からの影響を感じさせるものの、どちらかというと自身がライトノベルではできなかったことを積極的に実験しているかのような印象を抱きます。それは本作のほぼ唯一の奇抜な設定である「主人公が高校3年生の2学期の終業式に地元に戻ってくる時点から物語が始まる」ということに表れています。これがライトノベルでいかに採用しずらい設定かは容易に想像がつくことです。青春を彩る体育祭や文化祭などのイベントはほぼ消化され、人気如何でジャンプ漫画のように引き伸ばすことが求められるライトノベルにおいては、後戻り不可能な場所をエントリ・ポイントにしてしまっているからです。他にも恋愛模様を中心にライトノベルで採用することが難しいであろう展開がたびたび取り入れられます。つまり、ラノベができないことの逆算で構成されているような脚本になっているという見立てです。

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彼がライトノベル作家としては、奇をてらわずに作法をきちんと守るタイプの書き手であるということを思い出せば、この設定群が確信的に取り入れられていることは疑いえません。例えば、彼のラノベ作家としての最新作である『青春ブタ野郎』シリーズでは、西尾維新の『化物語』シリーズのように1話1ヒロインの形式を採用されています。1話目でメイン・ヒロインと恋仲となり、その後、他のヒロインたちの問題を解決していくという筋も『化物語』と同様で、ライトノベルの一つの標準的なフォーマットに従っています。その上で王道のガジェットを翻案し、時流を取り込み、自分の作品にしていくというのが彼のラノベ作家としてのスタンスであると言えます。

脱線しますが、基本的に「正妻の存在によってハーレムが可能になる」といううる星的なラブコメ・フォーマットに沿っている『青春ブタ野郎』シリーズにおいて、3巻の双葉理央というヒロインは異質で、『Just Because!』の登場人物に通じるキャラクター性を持っています。さらに彼女は極めて岡田麿里的な問題を背負った存在として描かれていることがまた興味を引きます。そして『青春ブタ野郎』における「青春ブタ野郎」とは主人公を指していますが、作中で主人公を「青春ブタ野郎」と呼んでいるのは双葉理央のみであり、彼女の特権性を象徴しています。

鴨志田は単にラノベでは取り入れにくい設定を文体練習のように実験的に取りれているだけではありません。そこには一つのテーマのようなものが見え隠れします。それはおそらく「終わらせられず、溜まっていくものをいかに終わらせるか」という主題です。本作は青春群像劇であり、この問題は恋愛という形で展開されます。しかし、この作品で扱われる恋愛は劇的に「始まって、育って、結末を迎える」ものではなく、「終わってるんだか、終わってないんだかよくわからない」ものであり、恋愛以外を含めた、日々そこここに溜まっていく諦念の集積として描かれます。あるキャラにとっては「いつまで姉をロールモデルにして生きていくのか」ということ、あるキャラにとっては「家族と自分の生き方の分節をどのように作っていくのか」、そして一番屈託のない陽斗でさえ、劇的な瞬間のなかった野球に何かのきっかけを幻視している。このように、ある意味ではありきたりで、なんとなくきっかけを失っているものの端的な現れとして恋愛が差し出されます。それはささやかなことの集積であるがゆえに、とらえどころのない呪いめいたものです。

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始まりも育っていく過程も忘却して、それでも「たいしたものではない」と捨てることができないものをいかに終わらせるか。これこそが個人的に本作のなかで、もっとも琴線に触れる部分です。こういったタイプのものは、それこそドラマに仕立て上げていく過程で、脇に置かれがちなものです。しかし、始まりや育っていく過程というものを削ぎ落とし、終わりの予感だけを強調するによって、この問題に焦点を当てているように思います。

おわりに

さて、結局、登場人物が最終的にどういう決断をし、この作品がどのような結末を迎えるかは明らかではりません。けれども「終わらせられず、積もっていくものをいかに終わらせるか」という問題に関しては、すでにある程度の回答をこの作品は提示しているように思えます。それは先に書いた通り、「待っていても分かりやすい契機などやってこない、しかし自己演出によって契機を捏造し、ドラマを仕立て上げていくのだ」という醒めていて、透徹とした態度です。登場人物から距離を取り、内面と内面とのぶつかり合いとは違った形の群像劇を形成した結果、浮かび上がるのはコミュニカティブだけれども、バラバラな登場人物たちの姿です。そのバラバラな登場人物が己のなかにあるささやかなものを契機として受け止め、生きていく。この全体性がかろうじてドラマめいたものを浮かび上がらせていきます。

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そして、そのような登場人物のあり方は、例えば、小林監督の絵コンテのカットのリズム感、鴨志田脚本のミニマルさ、やなぎなぎの音楽の抑揚など、各スタッフがそれぞれの職能のなかで十全に役割を果たし、それらが噛み合うことによって、浮かび上がる『Just Because!』の作品性と重ね合われられている、と言ってしまうと流石に筆が滑りすぎでしょうか。

Just Because!』はここで見れる!(再掲)

プロップデザインや背景へのフェティッシュや『月曜日のたわわ』の比村奇石が原案によるキャラデザ。ここでは語れなかった見所がまだまだ盛りだくさんの作品になっています。是非に!

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Just Because! | 動画 | Amazonビデオ